SNOW CRYSTAL
-Parfect World Novelize-
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水晶の華 第二話
 フォンさんは、左手に大きな封筒を抱えていた。朝から長老の呼び出しに応えて外出していた彼女は、まだ正装とも言える法衣を着たままだった。きっと、戻ってきてすぐにわたしの執務室を訪れたのだろう。
 フォンさんは、確認するようにわたしたちに尋ねた。
「水晶谷のことは、二人とも知ってるわね?」
「ええ、行ったことはないけど、話には聞いたことあるわ」
 ローソンもまた、軽く頷いた。
 世界中の情報を収集できるこの街に長くいれば、必ず耳にする場所だ。
 そこは魔力を帯びた水晶がむき出しになっており、日中に上空から見ると、谷全体が虹色にきらめいて、とても美しい場所だという。しかし、凶悪なモンスターの住家でもあるので、相当の実力がなければ近寄ることすらできないのだそうだ。
「その水晶谷から掘り出した水晶で作られたアイテムが、昨夜盗まれたそうなの」
 わたしは思わずハッと息を飲んだ。
「まさか」
 自分の頬が青ざめていくのがよくわかる。
「ええ、とても強力なマジックアイテムって聞かされたわ。ものがものだけに、何に悪用されるかわからない。一刻も早く奪還しなければならないからと、長老と夏風将軍の連名で、うちを含めていくつかのギルドに指令があったの」
 メモを取る手が震えて、上手く書けない。
 一口にマジックアイテムといっても、子供でも使えるようなものから、街一つ簡単に消滅させられるほどの凶悪な力を持つものまで様々。もともと魔力を帯びたものを特殊なアイテムに作り変えたのであれば、強い力を持つのは間違いない。
 事態は深刻だった。
「全てのギルド、じゃなかったんだ」
 ローソンの言葉に、フォンさんは静かに頷いた。
「ええ。マジックアイテムの扱いに長けた、高位の魔導師にしか扱えないものらしくて。魔道師については、将軍直々のご指名があったほどよ」
 わずかに間をおき、フォンさんは言葉を継いだ。
「うちのギルドでは、ルティさんだった」
 わたしは、青ざめた神妙な顔で頷いた。
 強力なマジックアイテムの中には、魔法抵抗力の低い者が触れてはならないものがある。持ち主の精神を犯したり、少しずつ生命力を吸い取るなどの性質を持つからだ。放って置けば、やがて死に至る。
 こういうアイテムは、魔力や魔法・魔術に対する高い知識を持ち、かつ高い魔法抵抗力を誇る魔導師だけがかろうじて扱える。攻撃力こそ並だが、抵抗力はギルド一高いわたしが指名されたのは得心がいく。
 しかし。
 他職に比べて少ないとはいえ、多くの魔道師が集うこの街では、突出した力があるとは言いがたい。
 わたしたちまで駆り出さねばならないほど、長老と将軍は困窮しているというのだろうか。
 とにかく、情報を収集しなくてはならない。
「盗んだ相手のことは、どのくらいわかってるの?」
 震えそうになる声を抑えて尋ねてみたが、フォンさんは、眉根を寄せてかぶりを振った。
「全くわかっていないそうよ。持ち主は殺されてしまったし、目撃者もいないそうだから。憶測ばかりが飛び交ってる状況ね」
 そう言って、フォンさんは、封筒をわたしに差し出した。
「資料よ」
 封を留めていた紐を解いて、綴じられた紙の束を引っ張り出す。表紙には『調査資料・指名ギルドメンバー用 取扱注意』と書かれていた。
「俺も見ていい?」
「ええ。ルティさんの護衛に何人かついてもらうつもりだから、ローソンにも読んでおいてもらった方がいいわ」
 わたしはフォンさんにソファーを勧め、机上の手紙を引き出しにしまってから自分の椅子に腰を下ろした。フォンさんに許可をもらったローソンは、近くに置いていた予備の椅子をわたしの隣りに引き寄せて、行儀悪く座った。
 ローソンにも見やすいように机上に資料を置いて、ページを繰る。
 一枚目には次のように書かれていた。

この事件について、関係者以外には他言せぬよう厳命する。
夏風将軍


 短い文章から、物々しい雰囲気が漂ってくる。軽く息を吸って、気持ちを落ち着かせると、わたしはまたページを繰った。次こそ調査結果の資料だった。

 昨夜午後十一時頃、祖龍城北の魔道師宅から何者かによって水晶が盗まれた。
 盗まれたのは、水晶谷から掘り出した水晶で作られた強力なマジックアイテムである。水晶の性質から、魔力を充填するアイテムとして使用されていたものと推測されるが、詳細は不明。
 持ち主である魔道師は、肉体の大部分がまるで弾け飛んだかのように室内に四散していた。殺害方法は不明。なお、現場には、魔道師か犯人のどちらかが魔術を行使したと思しき魔力の残滓あり。
 同時刻、周辺の住民が、羽音に似た物音を聞いている。その音は、南から来て南へ去って行ったという。事件との関連は不明。
 衛兵による現場及び周辺の調査は、現在も引き続き行われている。新たに判明した事実は、追って知らせる。


 資料に目を通していたわたしたちは、顔を見合わせた。
 確かに、不明な点ばかりだ。羽音らしき物音の証言にしても、漠然としすぎている。
「これじゃ何もわからんな」
 隣から手を伸ばして資料をめくりながら、ローソンが言った。わたしもフォンさんも頷いて同意を示した。
 次のページには魔道師のプロフィールが、その次のページには魔道師宅の上面図が書かれていたが、ありふれた人間、また自宅兼工房といった感じで、やはり大したことはわからなさそうだった。
 少なくとも、将軍がわたしまでも指名した理由は、なんとなく理解できた。
「現場を見ても構わないのなら、何か掴めるかもしれない。魔術が行使されたのなら、どんな魔術だったのか、とか」
「将軍もそう考えておられたみたい。指名者への許可はもう下りてるから、いつでも現場に行けるわよ」
「いや、待てよ」
 じっと資料を読み返していたローソンが、顔を上げた。
「何でどんな魔法が行使されたかわからなかったんだ? 魔道師くらい、調査隊にもいるだろう?」
 わたしは慎重に答えた。
「魔法じゃなくて『魔術』よ。簡単に言うと、魔法は『過程と結論が定められた奇跡』で、魔術は『たくさんの材料や時間や財力を注ぎ込んで実現する不思議』かな。魔法とは違って、何もかもが自由なものなのよ。術者本人しか知らない独創的な術だって、いくつもあるはずだわ。もちろん、その分、たくさんのことを犠牲にしてると思うけど」
 振り向くと、ローソンは、食べ慣れない物を無理矢理飲み込んだ時と同じ、奇妙な表情をしていた。
 思わず吹き出しそうになったけれど、咳払いをしてごまかした。
 魔法と魔術の違いを理解するのは難しい。わたし自身、理解するまでに長い時間がかかっているし、決して上手い説明ができたとは思っていない。
 講釈は置いておいて、話を進めよう。
「えーと……とにかく、どんな術が行使されたかを知るには、自分も同じような術を知ってなくちゃ想像もできないのよ。将軍は、魔道師の誰かが、行使された魔術かそれに近いものの知識を持ってるかもしれない、って期待してるんだと思う」
 これは推測でしかないが、おそらく間違ってはいないだろう。
 わたしは、わたしが持つ知識の提供を求められただけなのだ。
 もし知っている術が行使されていたり、犯人が誰かわかったとしても、わたしたちが表立って奪還に関わる必要はないはずだ。報告さえしてしまえば、それはきっと、もっと実力のある他の魔道師の仕事になる。
 そう思うと、少し気持ちが楽になった。
 わたしは資料を封筒に戻すと、立ち上がってバッグを取り、封筒を突っ込んだ。ローソンも、いつでも出かけられるようだった。
「とりあえず、現場に行ってみるわ。何かわかったら、将軍に知らせればいいのよね」
「お願いね。うちは、またモンスターが祖龍を襲撃しそうな気配があるそうだから、すぐ警備のローテーションを組み直さないと」
「大丈夫、ローソンいるから。フォンさんは自分の仕事に専念して」
 にっこり笑ったわたしを見て、フォンさんは、深い深いため息をついて天井を見上げた。
「ああもう、たまんないわ。このラブラブ夫婦」


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水晶の華 INDEX
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コメント
この記事へのコメント
ダメなんだけどぉぉぉ
急かしちゃイケナイのは、わかっているんだけどぉぉぉ、、、
早く続きが読みたいぃぃぃw
2007/11/01 (木) | URL | 那樹ナジュ #tw/GOPEY[ 編集]
ルティさんの文才に嫉妬!
続きがすごく楽しみー。
知ってる人が出てくるってのがすごく面白いですね。
wktkしながら待ってます!!
2007/11/02 (金) | URL | 俺様 #vQU5PwVA[ 編集]
思わず続きはいつですか?
と 書き込んでしまいました。
ごめんちゃい><
2007/11/03 (土) | URL | 金虎號 #-[ 編集]
すごすぎる~~~
るちーさん すごいですw
早く続きが読みたい~~~~><
2007/11/04 (日) | URL | 夢 #.okl0l1I[ 編集]
おへんじ
>>ALL
続きが楽しみ、との声にとても喜んでいます!
みんなの声が創作の源です。ありがとう^^
調子に乗って三話目UP~。
次はちょっとホラーな展開かも! 楽しんでもらえると嬉しいです^^

>>俺様
嫉妬すんなw
2007/11/05 (月) | URL | ルティルト #-[ 編集]
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