SNOW CRYSTAL
-Parfect World Novelize-
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水晶の華 第三話
 殺された魔道師の家は、わたしたちのギルドからそう遠くない住宅街にあった。気持ちよく晴れた朝の城北を、わたしたちはゆっくりと歩いていくことに決めた。
 道中話したのはごく他愛のないことで、状況が違えばただの散歩だったのだけれど、お互い指先までぴんと張り詰めていた。ローソンはいつものコートの下に鎧を着けて剣を帯びていたし、わたしは先ほどのフォンさんと同じように、法衣を纏って胸にはギルドの幹部である証のバッジを付けていたからだ。
 つまり、わたしたちはこの街に本拠を置く冒険者、ギルドの代表者としての正装で現場に赴こうとしていたのである。
 入り口には一人、仏頂面の衛兵が立っていた。
「あいすほりっくのルティルトです。彼はLostwin」
 名乗ってバッジを示すと、衛兵は面倒くさそうに手持ちのリストをめくり、頷いた。
「代表者はここにサインを」
 わたしは差し出されたペンを取り、少し考えてから、『ルティルト・G・シュミット』とサインをした。ペンを返すと、彼は鷹揚に顎と視線で入り口を指した。入ってもいいということらしい。
 玄関の扉をくぐるなり、ローソンがケッと吐き捨てた。
「なんだありゃ。職務怠慢じゃねえの? 失礼にも程があるよ」
「いいわよ、別に。あの人も疲れてるんでしょ」
「いや、あれはダメ。マジでダメ。本気でダメ。俺のルティさんにあの態度は許され」
「はいはい、もうわかったってば」
 なおもブツブツ言うローソンを放っておいて、わたしは奥へと歩を進めた。上面図では、現場となった工房は離れで、裏庭にあった。確か、キッチンの裏口を抜けていかないといけなかったはずだ。
 ついでなので、工房に行く前に、少し家の中も調べてみた。
 内部には、調度品の類はほとんどなかった。寝室とおぼしき部屋には固いベッドとサイドテーブルの上にランプと何冊かの本があっただけだし、タンスの中には数枚の衣類が、キッチンの棚には少しのパンと野菜類、お酒らしき液体が半分ほど入った緑色のビン、一人分の食器と揃いのものではないグラスがいくつか、それらが無造作に納めてあった。どうやら、最低限生活に必要なものを置いているだけのようだった。
「何もないな」
 寝室を調べていたわたしに、ローソンが戸口から声をかけた。
「そうね。ここには魔力は欠片も感じられない。魔法や魔術に関するものは、みんな向こうにあるんだと思うわ」
 わたしは、『薫風』というタイトルの本をそっとベッドサイドに戻した。祖龍の城の南東に位置する桃花庭園を舞台にした、古いロマンス小説のようだ。読みかけだったらしく、後半の部分にしおりが挟んであった。彼は意外とロマンチストだったのかもしれない。
「工房に行きましょう」
 裏口を抜けて、手入れのされていない小さな裏庭を横切っていく。
 そんな短い一瞬に、高く晴れた青い空が目に飛び込む。穏やかな風が髪を撫でるのを感じる。表から子供たちの歓声が聞こえる。どこかで洗濯物を干す、パンパンという威勢のいい音も。少し早い昼食の準備をしているのだろう、食欲を誘う匂いも漂ってくる。ごく当たり前の日常の断片たちを、五感で受け止める。人が殺されたなんて信じられないくらい、ここは本当にのどかな場所だ。
 それは、工房と言うよりは納屋といった雰囲気の建物だった。おそるおそる扉に手をかけたら、ローソンがそれを制した。
「俺が先に入る」
「あ、うん。お願い」
 わたしは素直に場所を譲った。抵抗力はあるが感応力も高いわたしが正体不明の魔力に充ちた場所に入ると、傷ついたり引き摺られることがあって危険なのだ。
 ギイッと軋む扉を開けてローソンが中を覗き込み、そして振り返った。
「平気?」
 扉の向こうから漏れ出てくる空気の中から魔力だけを選り分ける。ごく微量で、影響はなさそうだ。わたしはこくりと頷いてみせた。
 工房に足を踏み入れたわたしたちの注意をまず引いたのは、床や壁に散った大量の血液の痕だった。遺体は片付けられたようだが、血痕はなかなか消えないものだ。元騎士のローソンも、強力なモンスターが多い地域で生まれ育ったわたしも、遺体や血痕はいくらでも目にしたことがあるのだけれど、やっぱり気持ちのいいものではなかった。
 わたしたちは狭い工房の中を調べ始めた。考えていた以上に物は少なかった。魔術書が十冊ほど、価値のあまりない魔法の品々、用途のわからないガラクタもいくつかあった。分解して他のものに造り替えようとしていたのかもしれない。
 魔術の行使には、大抵儀式を伴う。だから、神に祈りを捧げる祭壇があったり、魔法陣が描かれていたり、イケニエを捧げた跡が残っていたりするはずなのだけれど、この工房にはそれらしき痕跡はなかった。彼が魔術を行使したのではなさそうだ。
 わたしは、残留する魔力の分析を始めた。
 思わず顔をしかめる。
 湿った土と、水の気配がかすかにする。それと、何かどろどろとした澱のような感触。なじみがあるようで、全くないようなもの。
「何だろう、これ。よくわからない……」
 この程度のわずかな魔力では、これ以上の分析は困難だった。
 もう一度別の場所で分析し直そうとして、血痕を踏まないように移動するため、体を支えるつもりで壁に軽く右手をついた、とたん。
 ざくっ。
 内側を浸食する熱い感覚。
「つ……っ!」
 わたしは右手を抱いて後ずさった。
 実際には、どこにも怪我はない。感覚があっただけだ。
 それでも、衝撃は腕を痺れさせていた。
「ルティさん?」
「大丈夫……ちょっと痺れただけ」
 わたしはゆっくりと息を吐き出した。痺れはゆるやかに治まっていった。他には何も異常はない。
 手をついた位置を調べると、そこにも血痕がいくつか飛んでいた。
 ゆっくり、指先を近づけていく。
 ローソンはわたしの行動を注視している。
 ごく近い位置で、小さな熱が、わたしを喰らおうと噛みついてきた。
「血液だわ」
 わたしは息を飲んだ。
「血液に魔力が充ちてる」
 工房を充たす魔力と同じものだ。
 目を閉じ、集中して分析を始める。土と、水と、それから……。
「あ」
 熱が、スピードを上げてわたしを喰らう。
 さくさく、さくさく。
 指先から腕へ、肩へ、次々と浸食していく。
「や……何、これ……」
 ひゅう、と喉が鳴った。
 呼吸がうまくできない。
 全身から嫌な汗が吹き出す。
 離れなければ。
 この場から離れなければ。
 ……この恐ろしいものに、引き摺られる。
 不意に、ローソンがわたしの腕を掴んで、壁から引き離した。そのまま、有無を言わさず外に連れ出された。
 わたしはすでに意識がぼうっとしていて、何とかその腕から逃れようと半狂乱になって抵抗していた。彼が腕を放してしまったら、わたしは容赦なく魔法を打ち込んでいたかもしれない。
「ルティさん、ダメだ。戻って」
 ローソンは、半ば操られて暴れるわたしを固く抱き締めた。どれくらいそうしていただろうか、やがてコートの下に着込んだ鎧の、ごつごつとした冷たい鉄の感触が、抱き締められるその苦しさと痛みが、わたしの意識を徐々にクリアにしていく。
 金属と魔力は相性が悪い。金属に触れると魔力の干渉を断ち切ることができる場合もある。それで、万が一を考えてあらかじめ頼んでおいたのだ。
 ……空は高く晴れ、風が穏やかに吹いている。
 わたしは城北の日常に戻ってきた。
「は、あ……」
 呼吸を整え、わたしはゆっくりと緋色の瞳を見上げた。わたしの瞳に理性の光が戻ったことを確認したローソンが、ようやく腕を弛めて安堵のため息をついた。
「危なかった」
「うん……助かった」
 完全に操られる前だったから、わたしは戻ってこられた。
 力を抜いて体を預けた。全身が小刻みに震えていた。法衣は汗でじっとり湿っている。操られた影響も大きかったが、何よりまだ心にあの恐怖が刻みつけられていた。
「怖かった」
 呟きに応えた、労るように背中を撫でる手は、どこまでも優しくて頼もしかった。



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2007/11/06 (火) | URL | ブログアクセスアップル #-[ 編集]
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