SNOW CRYSTAL
-Parfect World Novelize-
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
水晶の華 第五話
 『薫風』。今朝、あの魔術師の寝室で見たのと同じ本だ。
「これ、今流行ってるの?」
 わたしの投げかけた疑問に、コンちゃんは小首を傾げて答えた。
「ギルド内では、今から流行る予定?」
 わたしたちは三人同時に吹き出した。
「違うわよー。世間一般的に、ってこと」
「どうかなあ。そっちは、そんなことないと思うんだけど。ね、古本屋で叩き売られてたんでしょ、ナジュさん?」
「うんうん。それでちょっと立ち読みしてたんだけど、あんまりにもおかしかったから、つい買っちゃったの」
 うーん。わたしもぱらっと流し読みしたけど、そんなに面白い話とは思えなかったなぁ。
「ねえ、そんなに面白い?」
「面白いよ! だって、ねえ」
 二人は顔を見合わせて、またもや盛大に吹き出した。
「主人公がアオさんそっくりなんだもんねーっ!」
 あ、なるほど。そういうことね。それなら納得。
「ねね、ルティさんも読んでみて。絶対笑っちゃうから! わたしたち、もう一通り読んだから、貸してあげる」
 わたしは笑って、じゃあ、と差し出された本を受け取った。モンスターの襲撃に備えてしばらくギルドに泊まり込むことになるから、暇潰しにちょうどいい。
 執務室に入る直前に、ちょうど自分の執務室から出てきたフォンさんに声をかけられた。
「あ、ルティさんー」
「はーい、なぁに?」
「談話室行ってた?」
「うん、掲示板の貼り替えに行ったよー」
「さっき、メンバー全員に召集かけたんだけど、集まってきてたかな?」
「何人かは来てたわよ?」
「じゃ、そろそろ仮設ベッド出しといてもらえるよう、頼むかなー」
「ほぼ全員泊まり込みだものねー。支度は少しでも早い方がいいよね。あ、そういえば、糧食のことだけど」
「ん?」
「さっき、まぁくんがちょっと青ざめてた。だいぶ多くなったけど、経費で大丈夫? って」
「あっ、まかせて。今回も少なめに頼んだし、多少オーバーしてたって平気よ。わかにゃんのご飯を楽しみにしてる人、多いから。みんなの士気が上がるんなら、それくらい頑張って経費で落としちゃう」
「確かにね。わたしもいつも楽しみにしてる」
「実は、うちもめちゃ楽しみでねー」
 ふふ、と二人して口元を押さえて笑う。
 食べられる時にしっかり食べておく、というのは冒険者の鉄則だけれども、なるべくおいしく戴くことにもこだわりたい。味気無いご飯ばかりじゃ、気力も湧かないものね。
 支度といえば、うちの分の着替えを取りに戻らないといけなかったんだっけ。普段着、下着類、わたしの法衣とローソンの鎧下の替えがいる。
 以前はギルド内で保管してもらっていたものも今は全て新居に持って行っているから、こういう時はちょっと不便かな、と思う。
「ね、フォンさん。ちょっとだけ、着替えを取りに戻って構わない?」
「いいわよ。こっちは、五時頃までに戻って来てもらえれば大丈夫」
 フォンさんは、快く承諾してくれた。
「そんなにかからないと思うわ。じゃ、ちょっと出てくるね」
「はいはい、気をつけていってらっしゃーい」
 ひらひらと手を振ると、彼女は軽やかな足取りで談話室に向かって行った。
 それを見送ったわたしは執務室に戻り、借りた本を机上に置き、必要のなくなったメモやチラシを処分してから、自宅に戻った。

 二人分の荷物をまとめ、簡単に片付けをする。荷物の少ない我が家は、住み慣れていないこともあって、まだどこかよそよそしい感じがする。
「この家にも、早く慣れないとね」
 わたしは、ベッドメイクの最後に枕をぽんぽんと叩いて膨らませ、ベッドの上にきちんと置き直して、辺りを見回した。
 急いで決めたにしては、いいところなのだ。ちょっと古いけど、造りはしっかりしてるし、静かだし。ギルドにも近い。
 一段落したら、この家をもっと居心地よくしたい。この枕元に置く凝った細工のランプを探したり、居間のソファのカバーを二人ともが気に入る色の物に掛けかえて。ああ、壁の塗り替えもしたいな。お願いしたら、ローソンやってくれるかな。やりたいことはたくさんあるんだよね。
 そう、やりたいことはたくさんあるんだから。
 今回の件、早く片付いてほしい。
 がんばらなくちゃ。わたしたち自身のためにも。
 わたしはため息をついて立ち上がり、大きく膨らんだバッグを持ち上げた。

「お、ルティちゃんじゃんか」
 ギルドへと続く大通りに出たところで、声がかかった。
 振り向くと、友人の魔道師が、人なつっこい笑顔で歩み寄ってきていた。
「あら、久しぶりねー。いつ戻ったの?」
「今朝だよ。もうクタクタだぜ」
 彼は、ギルドに所属しておらず、フリーで仕事を請け負っている。数ヶ月前に夢幻の港周辺の警備を受けて向こうへ行ったきりだったので、会うのは久しぶりだ。
「にしても、でかい荷物抱えて、まあ……」
 そこでわたしの薬指に目を留めると、驚いたように目を丸くして、ニカッと笑った。
「なんだ、しばらく見ない間に結婚しちゃったのかよ。俺、あんた狙ってたのになあ」
「残念でしたー」
「例の剣士とだよな? いつ結婚したんだ?」
「ほんの数日前よ。惜しかったわね」
「ちぇー、一週間早く戻ってれば、俺の嫁だったかも」
「それはないわね!」
「ちょ、ちょっと。否定早いよ! くそー、荷物持ってやろうと思ったけど、やめやめ!」
 そう言いながら、あはは、と明るく笑う。なんてことはない、これは彼流の冗談で、祝福なのだ。
「こっちの仕事に戻れたの?」
「いや、臨時でね。襲撃に備えて俺も呼び戻されたってわけ。この件が終わったら、とんぼ返りだよ」
「大変じゃない」
「まあね」
 彼は大仰に肩をすくめてみせ、それからぐっと声を潜めて顔を寄せてきた。
「そういやさ、昨夜、この近くで殺人事件あったって聞いてる?」
 わたしは今朝のことを思い出して内心どきりとしたけれど、動揺を表に出さないよう、ゆっくりと頷いてみせた。
「例の魔道師の件なら、わたしも調査にも行ったわ」
「そか。……あのさ、俺、アイツと知り合いだったんだよね」
「仲良かったの?」
「いや、会えば世間話するって程度かな。でも、ちょっと気になることがあってさ。それで様子見に行こうと思って、さっきアイツん家に行って。そこで初めて殺されたって聞いたんだよね」
 そこで、彼はためらったのか、少し言葉を切った。
「一週間くらい前に、俺、アイツ見かけてんだ。これがまた、すげー妙な場所でさ」
「妙な場所?」
「うん。翡翠色の峰だっけ? あそこの南側。崖と川しかないようなとこなのにさ、そこで何するでもなくボーッと突っ立ってたんだよ。俺、そん時パーティ組んで飛行移動中だったから声かけらんなかったんだけど、なんかあったんじゃないかなぁ、ってずっと気になっててさ。んで、戻ってみたらこんな事件になってるだろ。もうびっくりしてさ。どうだろ、やっぱこれってなんか関係あったりすると思う?」
 あまりにも意外なところからの情報で、わたしはばかみたいに口をぽかんと開けて彼の言葉を聞いていた。
 わたしは、もうこの事件に関わるつもりはなかった。そして、これは本当に些細な情報だから、気にかける必要もないだろうとも思った。
 けれども……何か直感めいたものがわたし自身に訴えかけてきていた。
 もしかして、これって謎を解くための重要なヒントなんじゃないの?
 ただの気のせいかもしれない。
 だけど。
 もしかしたら。
 わたしは唇を噛み、慎重に言葉を選んで答えた。
「そうね……手掛かりが少な過ぎてみんな行き詰まってると思うから、情報提供する価値はあるんじゃないかな」
「そか。んじゃ、一応、後で将軍とこに報告行っとくかな」
「そうだね。そうするといいよ」
「うん。おっと、そろそろ交代の時間だ」
「えっ? 今朝戻ってきたのに、もう警備?」
「そうなんだよ。若手のフリーランスと見りゃコキ使ってくれちゃってさ、まったく。手当奮発してもらわにゃ、さすがに割に合わんぜ」
 彼はニッコリ笑い、じゃあまた、と手を振って城西の方へ慌ただしく去って行った。
 わたしは、複雑な心境でその後ろ姿を見送っていた。


第六話を読む
第四話を読む
水晶の華 INDEX
スポンサーサイト

テーマ:Perfect World -完美世界- - ジャンル:オンラインゲーム

コメント
この記事へのコメント
読んでいる間、物語の中に引き込まれていますw恐ろしい~w
2007/11/15 (木) | URL | 那樹ナジュ #tw/GOPEY[ 編集]
『薫風』が気になって夜も眠れないです。

名前出たー!ありがとうw
2007/11/16 (金) | URL | ao #-[ 編集]
やばい・・・ほんと引き込まれる

NEW!の文字でてないかな~っていつも覗いてます^^

続き、期待してます~♪
2007/11/20 (火) | URL | フォンデュ #mQop/nM.[ 編集]
おお、引き込まれるとか嬉しいコメントだー!
なるべく早く更新できるよう、執筆スピード上げたいですorz(←遅筆)
六話目はほのかにアオティリをご用意しました。ご堪能くださいw
2007/11/22 (木) | URL | ルティルト #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
管理人の承認後に表示されます
2012/11/14(水) 07:07:38 |
copyright © 2006 SNOW CRYSTAL all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。