SNOW CRYSTAL
-Parfect World Novelize-
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水晶の華 第六話
 ギルドに戻ると、もう五時前になっていた。焼きたてのパンの香ばしい匂いが入口まで漂っている。
「あ、ルティさん。そろそろ打ち合わせするから、荷物置きがてらローソン起こしてきてください」
 フォンさんの手伝いをしているのだろう、書類の束を抱えたアオさんが、声をかけてくれた。
「はぁい」
 わたしはできるだけ急いで階段を上っていった。
 ローソンが眠っているのは、今回、わたしたちにあてがわれた部屋だ。階段からは結構遠い場所になる。
 そんなに重くはないけれど、かさ張る荷物を運んで行くのには骨が折れた。
「ローソン、起きてる?」
 ようやくたどり着いて、声をかけながら扉を開けると、ごそごそと寝返りを打つのが見えた。
「そろそろ起きて。打ち合わせ始まるよ」
「うーん」
 生返事なのか、寝ぼけているのか。どっちにしても、これくらいじゃ到底起きてくれそうにない……いつものことだけれども。
「こら、起きて起きて!」
 ぐいぐい揺さぶると、うるさそうに肩を揺すった。
「あとちょっと……」
 とかなんとか、もごもご言いながらしっかり布団に潜り込もうとするところを、ばりっと掛け布団を引きはがす。下着一枚で寝る習慣のあるローソンにとっては、寒い季節にこれはたまらない、はずなんだけど。
 よほど眠いのか、ぶるるっと体を震わせつつも丸くなり、そのまま眠ってしまおうとしている。相当こっぴどい目に遭うまで起きるつもりはないらしい。
やれやれ、とわたしはため息をついた。
 よし、今日はあの手を試してみよう。
 わたしはバッグの中から髪留めを取り出し、少しだけ火の力を借りて魔力を込めた。
 それをベッドに向けて、勢いよく投げ付ける!
 気配を感じたローソンは、腕を伸ばして髪留めをはっしと掴んだ。まあ、そこまでは戦士らしい反応だった。
「あちちちちっ!? なんだこれ!」
 悲鳴をあげながら跳ね起き、髪留めを放り出す、情けない姿のパンツマン。
 ほら、火の魔力込めてるから熱いんだよね、それ。あんまり持続しないし、火傷するほど高温にはならないけれど、寝起きのローソンには充分な刺激だと思う。
「目、覚めた?」
「……今までで一番ヒドい起こし方じゃねぇ? これ」
「普通の起こし方で起きてくれるなら、もう二度としないって約束してあげる」
 恨みがましい目で見上げてくるローソンに、わたしは首を傾げて可愛らしく微笑んでみせた。
 ローソンはしばらく不服そうなうなり声を上げていたけれど。
 やがてがっくりと頭を垂れた。
「……すんません、努力します……」

 打ち合わせは簡単に終わった。緊急事態ではあるけれども、もう何度も同じような襲撃を乗り越えてきたから、みんなどう行動すべきかわかっている。伝達や話し合いの内容は、警備のローテーションや食事・洗濯・掃除に関すること、部屋の割り当て、入浴の順番などの確認が主だった。
 早速今夜の警備に当たっているメンバー達は、事前に通達があったようで、すでに身支度を終えていた。打ち合わせが終わるとすぐに、わかにゃんが作ってくれたロールサンドをお弁当に持って慌ただしく出かけていく。
 残ったメンバー達は、食堂で早めの夕食を摂った。あつあつで具だくさんのシチューと新鮮な野菜のサラダ、近海で採れた白身魚の香草焼き、それから焼きたてのパン。わかにゃんの指揮の下、料理が得意な何人かが腕をふるってくれたらしい。これほど凝った食事は、この件が収束するまでほとんど口にすることはできないだろう。みんな、じっくりと味わって晩餐を楽しんだ。『アルコール類はコップに二杯まで』という規制がなければ、きっともっと賑やかだったに違いない。
 食事が終わると、メンバー達は、後片付けをしたり、入浴の準備に部屋に戻ったり、談話室で話し込み始めた。
「それじゃ、幹部の会議に入りましょう」
 フォンさんが立ち上がり、わたし達幹部もそれに倣った。わかにゃんだけは急いでキッチンに消えたけれども、これはお茶とお茶請けを用意しに行ってくれたのだろう。まぁくんも手助けをするべく後を追っていった。
 幹部は警備のローテーションには組み込まれていない。フォンさんとわたしは有事には交代で指揮を執り、他の幹部はその補佐に当たることになっているし、情報収集や他のギルドとの連携なども処理しなければならず、とても警備までこなすことができないのだ。
 従って、襲撃が実際に始まるまで、幹部は会議漬けの日々を送ることになる。ローソンを始め、戦士達にはこれが苦痛でたまらないらしい。
 フォンさんの執務室……マスタールームに幹部全員が腰を落ち着け、熱いお茶を手にするまで、そんなに時間はかからなかった。
 出されたお茶請けのクッキーを一つだけ摘むと、アオさんは残りを丁寧に綺麗な紙に包んだ。わかにゃんが不安そうに尋ねた。
「口に合わなかった?」
「いえ、とてもおいしいので、後でティリルさんへの差し入れに持って行こうと思いまして」
 ティリル、というのは彼の妻で、別のギルドに所属している。同性の目から見ても、とても魅力的で可愛らしい人だ。
 アオさんはわかにゃんに微笑みかけ、それからうっとりと続けた。
「口移しで食べさせてあげたい美味な一品です」
 ……ええと。彼女、すっごく恥ずかしがって逃げそうだけど。やるんだろうな。本気で。
 微妙な沈黙を破って、フォンさんが口を開いた。
「各自の役割については、今更うちがみなさんに言うべきことはほとんどないと思います……」
 わたし達はフォンさんを見つめた。彼女はうつむき、両手を組み合わせてテーブルの上に乗せ、めずらしくためらうような表情を浮かべていた。
「でも、今回の件に関して、すでにこれまで襲撃が起きた例とは違う、いくつかの情報が届いています。それから、みなさんの耳に入れるべきか迷ったのですが……」
 そこでフォンさんは顔を上げ、わたしを見た。
「軍の方では、もしかしたらあの事件に関係があるのかもしれない、という推論が出てるそうです」
「あの事件?」
 怪訝そうな幹部達の視線を浴び、わたしはたじろいだ。そういえば、フォンさんとローソンの他は、あのことについてまだ何も知らないのだ。
 わたしは夏風将軍と長老の依頼のこと、今朝の調査の時に起こったことをかいつまんで話した。何人かが資料を見たいと言ったので、自分の執務室から資料を持ってこなければならなかった。上面図を指し示しながら再度説明もした。
「大体のことはわかりました。それで、何がこの事件と関係があるって考えられてるんですか?」
 長い前髪を払い、アオさんが資料から顔を上げて尋ねた。
「モンスター達が飢える季節ではないのにも関わらず、襲撃の気配を漂わせているということがまず一点です。同種のものでも食い合うモンスター達まで、今は諍いを起こさず群れをなし、祖龍を狙っている……何かに操られているのではないか、と言う人もいます」
 通常、モンスター達が飢えた時に、街への襲撃が起こる。彼らの本能に通じる行動だからか、統制は全く取れていない。同種であっても奪い合い、殺し合い、群れではなく個体として生き延びようとする。彼らにとって、街への襲撃は競争下にある狩りにすぎない。
 確かに、何かに操られているという推測は全くの見当違いとは言えない。
「つまり、何者かが意図的に介入している可能性がある。そういうことですね」
 アオさんが全員の心に浮かんだ答えを口にした。
「ええ」
「事件と時を同じくして襲撃の気配を漂わせ始めたということは、彼らを操るのに水晶の力を欲したのではないか、ということですか」
「そうです」
「でも、それだけでこの事件に結びつけるのはいささか短慮に過ぎますね」
「もちろんです」
 フォンさんは深く頷いた。
「もう二つ、新たな情報が寄せられたことによって、この推論が出されたのです。一つは、水晶に関することです。魔道師の友人の一人が知っていました。護符と同様に魔力を貯蔵し、使用者に必要なだけ供給することができるアイテムだそうです。護符の何十倍もの魔力を貯蔵できるようですね。さらに、簡単な召還術を行使する際の祭祀用としても使っていたようです。もう一つの情報は……事件に関連がないにしろ、とても悪いものです」
 誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「モンスター達の群れが集結している一角に、強い魔力が感知されました。軍属の魔道師達が、上空から何が起きているのか確認したそうです。どうやら、何かを召還するための巨大な門が開きかけている、との報告がありました。門が開くのは時間の問題だろう、とも」
 マスタールームに、長い沈黙が降りた。


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水晶の華 INDEX
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コメント
この記事へのコメント
アオティリキター!
(*´Д`)ハァハァ
た、たまりません。
2007/11/23 (金) | URL | 俺様 #-[ 編集]
ワックワック♪
どんな展開になっていくのか毎度毎度楽しみ~♪

わくわくさんですw


※o(▽ ̄*)ノフレー※\(* ̄▽ ̄*)/※フレーヽ(* ̄▽)o※

2007/11/23 (金) | URL | コンスタンツ #-[ 編集]
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