SNOW CRYSTAL
-Parfect World Novelize-
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水晶の華 第五話
 『薫風』。今朝、あの魔術師の寝室で見たのと同じ本だ。
「これ、今流行ってるの?」
 わたしの投げかけた疑問に、コンちゃんは小首を傾げて答えた。
「ギルド内では、今から流行る予定?」
 わたしたちは三人同時に吹き出した。
「違うわよー。世間一般的に、ってこと」
「どうかなあ。そっちは、そんなことないと思うんだけど。ね、古本屋で叩き売られてたんでしょ、ナジュさん?」
「うんうん。それでちょっと立ち読みしてたんだけど、あんまりにもおかしかったから、つい買っちゃったの」
 うーん。わたしもぱらっと流し読みしたけど、そんなに面白い話とは思えなかったなぁ。
「ねえ、そんなに面白い?」
「面白いよ! だって、ねえ」
 二人は顔を見合わせて、またもや盛大に吹き出した。
「主人公がアオさんそっくりなんだもんねーっ!」
 あ、なるほど。そういうことね。それなら納得。
「ねね、ルティさんも読んでみて。絶対笑っちゃうから! わたしたち、もう一通り読んだから、貸してあげる」
 わたしは笑って、じゃあ、と差し出された本を受け取った。モンスターの襲撃に備えてしばらくギルドに泊まり込むことになるから、暇潰しにちょうどいい。
 執務室に入る直前に、ちょうど自分の執務室から出てきたフォンさんに声をかけられた。
「あ、ルティさんー」
「はーい、なぁに?」
「談話室行ってた?」
「うん、掲示板の貼り替えに行ったよー」
「さっき、メンバー全員に召集かけたんだけど、集まってきてたかな?」
「何人かは来てたわよ?」
「じゃ、そろそろ仮設ベッド出しといてもらえるよう、頼むかなー」
「ほぼ全員泊まり込みだものねー。支度は少しでも早い方がいいよね。あ、そういえば、糧食のことだけど」
「ん?」
「さっき、まぁくんがちょっと青ざめてた。だいぶ多くなったけど、経費で大丈夫? って」
「あっ、まかせて。今回も少なめに頼んだし、多少オーバーしてたって平気よ。わかにゃんのご飯を楽しみにしてる人、多いから。みんなの士気が上がるんなら、それくらい頑張って経費で落としちゃう」
「確かにね。わたしもいつも楽しみにしてる」
「実は、うちもめちゃ楽しみでねー」
 ふふ、と二人して口元を押さえて笑う。
 食べられる時にしっかり食べておく、というのは冒険者の鉄則だけれども、なるべくおいしく戴くことにもこだわりたい。味気無いご飯ばかりじゃ、気力も湧かないものね。
 支度といえば、うちの分の着替えを取りに戻らないといけなかったんだっけ。普段着、下着類、わたしの法衣とローソンの鎧下の替えがいる。
 以前はギルド内で保管してもらっていたものも今は全て新居に持って行っているから、こういう時はちょっと不便かな、と思う。
「ね、フォンさん。ちょっとだけ、着替えを取りに戻って構わない?」
「いいわよ。こっちは、五時頃までに戻って来てもらえれば大丈夫」
 フォンさんは、快く承諾してくれた。
「そんなにかからないと思うわ。じゃ、ちょっと出てくるね」
「はいはい、気をつけていってらっしゃーい」
 ひらひらと手を振ると、彼女は軽やかな足取りで談話室に向かって行った。
 それを見送ったわたしは執務室に戻り、借りた本を机上に置き、必要のなくなったメモやチラシを処分してから、自宅に戻った。

 二人分の荷物をまとめ、簡単に片付けをする。荷物の少ない我が家は、住み慣れていないこともあって、まだどこかよそよそしい感じがする。
「この家にも、早く慣れないとね」
 わたしは、ベッドメイクの最後に枕をぽんぽんと叩いて膨らませ、ベッドの上にきちんと置き直して、辺りを見回した。
 急いで決めたにしては、いいところなのだ。ちょっと古いけど、造りはしっかりしてるし、静かだし。ギルドにも近い。
 一段落したら、この家をもっと居心地よくしたい。この枕元に置く凝った細工のランプを探したり、居間のソファのカバーを二人ともが気に入る色の物に掛けかえて。ああ、壁の塗り替えもしたいな。お願いしたら、ローソンやってくれるかな。やりたいことはたくさんあるんだよね。
 そう、やりたいことはたくさんあるんだから。
 今回の件、早く片付いてほしい。
 がんばらなくちゃ。わたしたち自身のためにも。
 わたしはため息をついて立ち上がり、大きく膨らんだバッグを持ち上げた。

「お、ルティちゃんじゃんか」
 ギルドへと続く大通りに出たところで、声がかかった。
 振り向くと、友人の魔道師が、人なつっこい笑顔で歩み寄ってきていた。
「あら、久しぶりねー。いつ戻ったの?」
「今朝だよ。もうクタクタだぜ」
 彼は、ギルドに所属しておらず、フリーで仕事を請け負っている。数ヶ月前に夢幻の港周辺の警備を受けて向こうへ行ったきりだったので、会うのは久しぶりだ。
「にしても、でかい荷物抱えて、まあ……」
 そこでわたしの薬指に目を留めると、驚いたように目を丸くして、ニカッと笑った。
「なんだ、しばらく見ない間に結婚しちゃったのかよ。俺、あんた狙ってたのになあ」
「残念でしたー」
「例の剣士とだよな? いつ結婚したんだ?」
「ほんの数日前よ。惜しかったわね」
「ちぇー、一週間早く戻ってれば、俺の嫁だったかも」
「それはないわね!」
「ちょ、ちょっと。否定早いよ! くそー、荷物持ってやろうと思ったけど、やめやめ!」
 そう言いながら、あはは、と明るく笑う。なんてことはない、これは彼流の冗談で、祝福なのだ。
「こっちの仕事に戻れたの?」
「いや、臨時でね。襲撃に備えて俺も呼び戻されたってわけ。この件が終わったら、とんぼ返りだよ」
「大変じゃない」
「まあね」
 彼は大仰に肩をすくめてみせ、それからぐっと声を潜めて顔を寄せてきた。
「そういやさ、昨夜、この近くで殺人事件あったって聞いてる?」
 わたしは今朝のことを思い出して内心どきりとしたけれど、動揺を表に出さないよう、ゆっくりと頷いてみせた。
「例の魔道師の件なら、わたしも調査にも行ったわ」
「そか。……あのさ、俺、アイツと知り合いだったんだよね」
「仲良かったの?」
「いや、会えば世間話するって程度かな。でも、ちょっと気になることがあってさ。それで様子見に行こうと思って、さっきアイツん家に行って。そこで初めて殺されたって聞いたんだよね」
 そこで、彼はためらったのか、少し言葉を切った。
「一週間くらい前に、俺、アイツ見かけてんだ。これがまた、すげー妙な場所でさ」
「妙な場所?」
「うん。翡翠色の峰だっけ? あそこの南側。崖と川しかないようなとこなのにさ、そこで何するでもなくボーッと突っ立ってたんだよ。俺、そん時パーティ組んで飛行移動中だったから声かけらんなかったんだけど、なんかあったんじゃないかなぁ、ってずっと気になっててさ。んで、戻ってみたらこんな事件になってるだろ。もうびっくりしてさ。どうだろ、やっぱこれってなんか関係あったりすると思う?」
 あまりにも意外なところからの情報で、わたしはばかみたいに口をぽかんと開けて彼の言葉を聞いていた。
 わたしは、もうこの事件に関わるつもりはなかった。そして、これは本当に些細な情報だから、気にかける必要もないだろうとも思った。
 けれども……何か直感めいたものがわたし自身に訴えかけてきていた。
 もしかして、これって謎を解くための重要なヒントなんじゃないの?
 ただの気のせいかもしれない。
 だけど。
 もしかしたら。
 わたしは唇を噛み、慎重に言葉を選んで答えた。
「そうね……手掛かりが少な過ぎてみんな行き詰まってると思うから、情報提供する価値はあるんじゃないかな」
「そか。んじゃ、一応、後で将軍とこに報告行っとくかな」
「そうだね。そうするといいよ」
「うん。おっと、そろそろ交代の時間だ」
「えっ? 今朝戻ってきたのに、もう警備?」
「そうなんだよ。若手のフリーランスと見りゃコキ使ってくれちゃってさ、まったく。手当奮発してもらわにゃ、さすがに割に合わんぜ」
 彼はニッコリ笑い、じゃあまた、と手を振って城西の方へ慌ただしく去って行った。
 わたしは、複雑な心境でその後ろ姿を見送っていた。


第六話を読む
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水晶の華 INDEX

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水晶の華 第六話
 ギルドに戻ると、もう五時前になっていた。焼きたてのパンの香ばしい匂いが入口まで漂っている。
「あ、ルティさん。そろそろ打ち合わせするから、荷物置きがてらローソン起こしてきてください」
 フォンさんの手伝いをしているのだろう、書類の束を抱えたアオさんが、声をかけてくれた。
「はぁい」
 わたしはできるだけ急いで階段を上っていった。
 ローソンが眠っているのは、今回、わたしたちにあてがわれた部屋だ。階段からは結構遠い場所になる。
 そんなに重くはないけれど、かさ張る荷物を運んで行くのには骨が折れた。
「ローソン、起きてる?」
 ようやくたどり着いて、声をかけながら扉を開けると、ごそごそと寝返りを打つのが見えた。
「そろそろ起きて。打ち合わせ始まるよ」
「うーん」
 生返事なのか、寝ぼけているのか。どっちにしても、これくらいじゃ到底起きてくれそうにない……いつものことだけれども。
「こら、起きて起きて!」
 ぐいぐい揺さぶると、うるさそうに肩を揺すった。
「あとちょっと……」
 とかなんとか、もごもご言いながらしっかり布団に潜り込もうとするところを、ばりっと掛け布団を引きはがす。下着一枚で寝る習慣のあるローソンにとっては、寒い季節にこれはたまらない、はずなんだけど。
 よほど眠いのか、ぶるるっと体を震わせつつも丸くなり、そのまま眠ってしまおうとしている。相当こっぴどい目に遭うまで起きるつもりはないらしい。
やれやれ、とわたしはため息をついた。
 よし、今日はあの手を試してみよう。
 わたしはバッグの中から髪留めを取り出し、少しだけ火の力を借りて魔力を込めた。
 それをベッドに向けて、勢いよく投げ付ける!
 気配を感じたローソンは、腕を伸ばして髪留めをはっしと掴んだ。まあ、そこまでは戦士らしい反応だった。
「あちちちちっ!? なんだこれ!」
 悲鳴をあげながら跳ね起き、髪留めを放り出す、情けない姿のパンツマン。
 ほら、火の魔力込めてるから熱いんだよね、それ。あんまり持続しないし、火傷するほど高温にはならないけれど、寝起きのローソンには充分な刺激だと思う。
「目、覚めた?」
「……今までで一番ヒドい起こし方じゃねぇ? これ」
「普通の起こし方で起きてくれるなら、もう二度としないって約束してあげる」
 恨みがましい目で見上げてくるローソンに、わたしは首を傾げて可愛らしく微笑んでみせた。
 ローソンはしばらく不服そうなうなり声を上げていたけれど。
 やがてがっくりと頭を垂れた。
「……すんません、努力します……」

 打ち合わせは簡単に終わった。緊急事態ではあるけれども、もう何度も同じような襲撃を乗り越えてきたから、みんなどう行動すべきかわかっている。伝達や話し合いの内容は、警備のローテーションや食事・洗濯・掃除に関すること、部屋の割り当て、入浴の順番などの確認が主だった。
 早速今夜の警備に当たっているメンバー達は、事前に通達があったようで、すでに身支度を終えていた。打ち合わせが終わるとすぐに、わかにゃんが作ってくれたロールサンドをお弁当に持って慌ただしく出かけていく。
 残ったメンバー達は、食堂で早めの夕食を摂った。あつあつで具だくさんのシチューと新鮮な野菜のサラダ、近海で採れた白身魚の香草焼き、それから焼きたてのパン。わかにゃんの指揮の下、料理が得意な何人かが腕をふるってくれたらしい。これほど凝った食事は、この件が収束するまでほとんど口にすることはできないだろう。みんな、じっくりと味わって晩餐を楽しんだ。『アルコール類はコップに二杯まで』という規制がなければ、きっともっと賑やかだったに違いない。
 食事が終わると、メンバー達は、後片付けをしたり、入浴の準備に部屋に戻ったり、談話室で話し込み始めた。
「それじゃ、幹部の会議に入りましょう」
 フォンさんが立ち上がり、わたし達幹部もそれに倣った。わかにゃんだけは急いでキッチンに消えたけれども、これはお茶とお茶請けを用意しに行ってくれたのだろう。まぁくんも手助けをするべく後を追っていった。
 幹部は警備のローテーションには組み込まれていない。フォンさんとわたしは有事には交代で指揮を執り、他の幹部はその補佐に当たることになっているし、情報収集や他のギルドとの連携なども処理しなければならず、とても警備までこなすことができないのだ。
 従って、襲撃が実際に始まるまで、幹部は会議漬けの日々を送ることになる。ローソンを始め、戦士達にはこれが苦痛でたまらないらしい。
 フォンさんの執務室……マスタールームに幹部全員が腰を落ち着け、熱いお茶を手にするまで、そんなに時間はかからなかった。
 出されたお茶請けのクッキーを一つだけ摘むと、アオさんは残りを丁寧に綺麗な紙に包んだ。わかにゃんが不安そうに尋ねた。
「口に合わなかった?」
「いえ、とてもおいしいので、後でティリルさんへの差し入れに持って行こうと思いまして」
 ティリル、というのは彼の妻で、別のギルドに所属している。同性の目から見ても、とても魅力的で可愛らしい人だ。
 アオさんはわかにゃんに微笑みかけ、それからうっとりと続けた。
「口移しで食べさせてあげたい美味な一品です」
 ……ええと。彼女、すっごく恥ずかしがって逃げそうだけど。やるんだろうな。本気で。
 微妙な沈黙を破って、フォンさんが口を開いた。
「各自の役割については、今更うちがみなさんに言うべきことはほとんどないと思います……」
 わたし達はフォンさんを見つめた。彼女はうつむき、両手を組み合わせてテーブルの上に乗せ、めずらしくためらうような表情を浮かべていた。
「でも、今回の件に関して、すでにこれまで襲撃が起きた例とは違う、いくつかの情報が届いています。それから、みなさんの耳に入れるべきか迷ったのですが……」
 そこでフォンさんは顔を上げ、わたしを見た。
「軍の方では、もしかしたらあの事件に関係があるのかもしれない、という推論が出てるそうです」
「あの事件?」
 怪訝そうな幹部達の視線を浴び、わたしはたじろいだ。そういえば、フォンさんとローソンの他は、あのことについてまだ何も知らないのだ。
 わたしは夏風将軍と長老の依頼のこと、今朝の調査の時に起こったことをかいつまんで話した。何人かが資料を見たいと言ったので、自分の執務室から資料を持ってこなければならなかった。上面図を指し示しながら再度説明もした。
「大体のことはわかりました。それで、何がこの事件と関係があるって考えられてるんですか?」
 長い前髪を払い、アオさんが資料から顔を上げて尋ねた。
「モンスター達が飢える季節ではないのにも関わらず、襲撃の気配を漂わせているということがまず一点です。同種のものでも食い合うモンスター達まで、今は諍いを起こさず群れをなし、祖龍を狙っている……何かに操られているのではないか、と言う人もいます」
 通常、モンスター達が飢えた時に、街への襲撃が起こる。彼らの本能に通じる行動だからか、統制は全く取れていない。同種であっても奪い合い、殺し合い、群れではなく個体として生き延びようとする。彼らにとって、街への襲撃は競争下にある狩りにすぎない。
 確かに、何かに操られているという推測は全くの見当違いとは言えない。
「つまり、何者かが意図的に介入している可能性がある。そういうことですね」
 アオさんが全員の心に浮かんだ答えを口にした。
「ええ」
「事件と時を同じくして襲撃の気配を漂わせ始めたということは、彼らを操るのに水晶の力を欲したのではないか、ということですか」
「そうです」
「でも、それだけでこの事件に結びつけるのはいささか短慮に過ぎますね」
「もちろんです」
 フォンさんは深く頷いた。
「もう二つ、新たな情報が寄せられたことによって、この推論が出されたのです。一つは、水晶に関することです。魔道師の友人の一人が知っていました。護符と同様に魔力を貯蔵し、使用者に必要なだけ供給することができるアイテムだそうです。護符の何十倍もの魔力を貯蔵できるようですね。さらに、簡単な召還術を行使する際の祭祀用としても使っていたようです。もう一つの情報は……事件に関連がないにしろ、とても悪いものです」
 誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「モンスター達の群れが集結している一角に、強い魔力が感知されました。軍属の魔道師達が、上空から何が起きているのか確認したそうです。どうやら、何かを召還するための巨大な門が開きかけている、との報告がありました。門が開くのは時間の問題だろう、とも」
 マスタールームに、長い沈黙が降りた。


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